錦鯉の歴史

錦鯉を紐解く

日本では、鯉の養殖に関する文献が少なく、最も古いものは、日本書紀の中で天皇が鯉を観賞したという記述があるとされています。江戸時代までの間は、文献が発見されていませんでした。しかし、1796年の本草和名には、赤(緋鯉)、青(浅黄)、黒(鉄真鯉)、白鯉(色無地)が記載されており、これらは真鯉の中から突然異変として出現したものでした。これが後の世に錦鯉を誕生させる鍵となりました。つまり、錦鯉は、真鯉の突然変異から誕生した品種であることがわかります。

山古志郷では、古くから鉄真鯉が食用として飼われており、その中から緋鯉が突然現れました。江戸時代末期に、白色化した浅黄と緋鯉を交配させることで、「鹿の子」という魚が誕生し、これが明治時代に入ってから「背に赤斑の浮かぶ更紗」と呼ばれる紅白種の祖先となりました。明治7~8年には、紅白種の素地らしき薄紅色の魚が現れ、その後、地域に分散して改良が重ねられ、大正6年には「大正三色」という品種が誕生し、品種が多様化しました。

ドイツ鯉が登場したことは、錦鯉の品種改良において大きな進歩をもたらしました。1904年にドイツからアイシュグルデン種が40尾寄贈され、長野県で食用鯉の改良に使われました。その中から2尾が秋山吉五郎氏によってドイツ浅黄が作出され、これが秋翠であり、秋翠と紅白と大正三色とを交配することで幾世代もかけて鏡鱗の紅白(ドイツ紅白)や同大正三色(ドイツ三色)が作出されました。

ドイツ鯉は、鏡鱗(半月型)という特徴的な形質を持ち、これが全ての品種に確実に伝えられます。和鯉や鎧鯉などと対照的に、体高や幅の面で優位を保ち、飼料効率の高さなど種の特性を改良してきました。ドイツ種の存在は新品種の作出に不可欠であるとされています。

戦後の錦鯉の歴史を語る上で、黄金の作出と金銀鱗の固定は非常に重要です。1947年に青木沢太氏によって作出された黄金は、金箔のように輝く胸鰭を持つ鯉で、黄金の血が入った品種は26種に固定されました。金銀鱗の固定も錦鯉の歴史に刻まれる重要な出来事でした。

昭和40年代、広島県の上寺氏らが、鱗を金色や銀に輝かせる新しい銀鱗の品種を固定し、多くの生産者がこれを採用して錦鯉の基幹品種である紅白や大正三色、昭和三色と交配させ改良を進めました。錦鯉の品種改良には品種の固定、ドイツ鯉の導入、黄金の作出と金銀鱗の固定が含まれ、これらの応用によって新品種が作出されてきました。従って、錦鯉の歴史は品種改良と作出の歴史であると言えます。

 

錦鯉主要品種別作出年表

品種 / 作出年 / 作出地 / 作出者 / 備考

  • 紅白 / 明治22年(1890年) / 小千谷市 / 広井国蔵 /
  • 秋翠 / 明治39年(1906年) / 東京都深川 / 秋山吉五郎 / ドイツ×浅黄
  • 大正三色 / 大正6年(1917年) / 山古志村 / 星野栄三郎 / 紅白×別甲
  • 黄写り / 大正9年(1920年) / 山古志村 / 佐藤与兵衛 / 黄別甲×真鯉
  • 黄写り / 大正9年(1920年) / 山古志村 / 星野栄三郎 / 黄写り×黄写(固定)
  • 白写り / 大正13年(1925年) / 山古志村 / 峰村一夫 / 黄写三色×♀白別甲(川上寅吉)
  • 昭和三色 / 昭和2年(1927年) / 山古志村 星野重吉 / 黄写×松川バケ
  • 昭和三色 / 昭和2年(1927年) / 小千谷市 星野喜七郎 / 昭和×白写(固定)
  • 黄鯉 / 昭和5年(1930年) / 山古志村 松井佳一 / S11年現在の錦鯉を花鯉と名称した。
  • 金兜 / 昭和17年(1924年) / 山古志村 高野伊勢松 / 金棒×富士銀
  • 黄金 / 昭和22年(1947年) / 山古志村 青木沢太 / 金兜×金富士
  • オレンヂ黄金 / 昭和56年(1956年) / 小千谷市 片岡正脩 / 浅黄×黄金(1963年固定)
  • ドイツ黄金 / 昭和33年(1958年) / 山古志村 酒井富栄 / 黒ドイツ×黄金
  • 金黄写り / 昭和33年(1958年) / 山古志村 高橋藤蔵 / 黄金×黄写り
  • 張分黄金 / 昭和35年(1960年) / 山古志村 / 酒井富策 / 黄金より
  • 松葉黄金 / 昭和35年(1960) / 小千谷市 / 間野栄三郎
  • 孔雀黄金 / 昭和35年(1960年) / 小千谷市 / 平沢利雄 / 松葉張分×秋翠
  • プラチナ黄金 / 昭和38年(1963年) / 富山県魚津市 / 吉岡忠夫 / 赤目黄鯉×ネズ黄金
  • 越の緋色(みどり鯉) / 昭和38年(1963年) / 富山県魚津市 / 吉岡忠夫 / 秋翠×山吹黄金
  • 紅光輝 / 平成2年(1990年) / 小千谷市 / 鈴木富栄 / ドイツ五色×ドイツ孔雀
  • 金輝竜 / 平成2年(1990年) / 山古志村 / 渡辺一冶 / ドイツ金竜×ドイツ金昭和・金竜=九紋竜×銀松葉
  • 輝黒竜 / 平成4年(1992年) / 小千谷市 / 青木春雄 / 九紋竜×菊水
  • 紅輝黒竜 / 平成4年(1992年) / 小千谷市 / 青木春雄 / 九紋竜×菊水
  • 銀 河 / 平成10年(1998年) / 小千谷市 / 片岡哲太郎 / 銀鱗羽白×五色×元黒孔雀

 

参考サイト→全日本錦鯉振興会